KTAR Tuning Machines

KTAR チューニングマシン

 2020年夏より、イタリア製のチューニングマシンKTARをオプションではありますがカスタムオーダーで使えるようにしました。もともとオープンギアタイプを希望されていたお客様がすぐに気に入り、早速完成間近だった"Lily"に使用しました。それから2本目として最新作のファンフレットプロトタイプ"Lucy"にも使用したので、どんなチューニングマシンなのか所感を書きます。

 "Lily"と"Lucy"のヘッド表裏の写真を載せましたが、まず見た目が圧倒的に美しいと思いました。僕はギターのデザインに限らずシンプルなものを好むのですが、余計なものを削ぎ落とした引き算の美学というか、例えばチューニングマシンをヘッドに止めるネジすらありません。プレート裏に削り出しでピン加工がされており、回り止めの役割をしています。(※2020年12月現在、日本仕様として新たにネジ止めタイプもあります)溶接など一切せず、金属削り出しのパーツで構成されているのも美しい。

 次に重さについて。僕のギターに通常使用しているGOTOH 510Z、これはチューニングの精度や安定性、細かいギア比(1:21)、耐久性などを信頼して標準のチューニングマシンとして採用しているのですが、ロトマチックタイプなのでどうしても重いです。1セット240gにもなるため、最近はつまみをエボニーに交換して195g/セットで使用しています。余談ですが、僕の初期のギターは師匠であるソモギさんの影響でサイド材をラミネートしていたためボディ自体が重く、ヘッドが重くてもバランス的にあまり気になりませんでした。ただ、第2世代以降ボディを軽くしていったのでネックとの重量バランス(ヘッド落ち)が気になるようになり、樹脂やエボニーのつまみに交換してバランスを取っていました。

 閑話休題。KTARチューニングマシンの重さは今工房に在庫しているアルミニウム製のもので114g/セットです。とても軽いのでギターの重量バランス的には最高です。他にステンレス製("Lily"と"Lucy"に採用)とチタニウム製のものもありますが、概して軽量になると言えます。ヘッドの重さのことを書いた時によく聞かれるのが、「音のためには重いのと軽いのどちらが良いの?」ということですが、確かにヘッドが重い方がより張りのある音が出ると思います。でも現時点での僕の意見はギターの重量バランス優先です。弾きやすい方が良いし、音はヘッドの重さにこだわるよりは僕にとってはボディの設計でいくらでも変えられるからです。(すでに完成されたギターのチューニングマシンを替える場合は話は別ですが‥)

 これまではオープンギアタイプが軽量だし見た目も美しいし良いなぁとは思っていたのですが、以前はヘッド表側がブッシュタイプしかなくて精度的にも耐久性的にも使いたくなかった。それが数年前にGOTOHのラインナップに加わったSXN510はブッシュからネジ締めできるタイプになって良かったのですが、ギア比が1:15ということでソロギターに使うにはちょっと物足りないかもと思っていました。

 ところがKTARはギア比が1:18です。実際に"Lily"と"Lucy"に使用してみて、それらを弾いたギタリスト数名からも「ギターのピッチがすごく良い」と同様の感想をいただきました。これまで僕の製作したギターの特にピッチについて言及されたことはなかったので、KTARチューニングマシンの恩恵なのではないかと思います(笑)ギアのバックラッシュが極端に小さいのか、チューニングがピタリと決まります。

 使い始めたばかりなのでオープンギアタイプの欠点とされる耐久性については検証が必要ですが、ネジの精度やギアの動きなどを見ても、機械加工の精巧さがうかがわれるので期待しています。高価なチューニングマシンではありますが、見た目の美しさとチューニングの精度で十分に価値のあるものだと思います。カスタムオーダーを検討されている方には、ギターの材などの他にチューニングマシンの選択もご一考いただければ幸いです。

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